ホスピタル病院

自分をモヒカン社畜だと思い込んでいる17歳JKのブログ

Vita(命)の最後だからこそ。『グノーシア』レビュー

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ADVゲームって実は苦手なんですよね。(挨拶)

小説を読むのは好き。テキストサイトを読むのも好き。
書く分には前のPCに死蔵した自作ラノベの冒頭がある程度には好き。
でもADVゲームは小説のようにバーッと1ページを読めずに
文字を一行ずつ読むことになるのでよほど物語が面白くないと結構苦痛で。

ただいまいちやりたいゲームもなく、さぁどうすっか。気にはなってたが長そうで回避した
この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』とかあたりをやろうかとか思ってたんですが1週10分程度、という言葉に惹かれて購入。

10分程度で終われない、2時間3時間と没頭してしまうADV
『GNOSIA(グノーシア)』をレビューしよう。

 

 

□ゲーム概要

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↑親方!目覚めたら女の子(?)が!

遥か未来の宇宙船であなたは目覚める。
目覚めの挨拶もままならぬうちに目の前の女性が告げる。
「僕たちはこれから人間に擬態した化け物が誰かを探らなければならない」
見事に化け物を看破し、安堵するあなたに女性は告げる。
「これは始まりに過ぎない」と。
その人間に擬態する化け物の名前はグノーシアといった。

あなたはもう一度目覚める。次はグノーシアとして。
あなたはもう一度目覚める。次はバグとして。
あなたは何度でも目覚める。
世界はループしその度にあなたと仲間たちの役割は変わる。
変わらぬ世界で変わる仲間たちと親交を深め、ループの打破を目指す。
真の目覚めを得るために。

簡単に言ってしまうと一人用人狼ゲーム+ストーリーというADVゲームである。
このゲームの大目標(ゲームクリア)はループからの脱出だが、
そのためには主人公はループを繰り返し、

  • 人狼に勝利し経験値を貯めてレベルアップを行うこと
  • 各キャラクターのイベントシーンを見ること

この二つがプレイヤーにとっての目標となる。

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↑左は女の子。右のセツは男でも女でもない汎。等しく穴はあるでゴザル!

ちなみにイベントシーンではいわゆる普通の会話のほかに
いやぁ~ん♡でまいっちんぐ♡なシャワーシーンが多くのキャラに搭載。
また、未来でSFな世界観であることから、
男性と女性のほかに「汎」というどちらでもない性別がある。*1
さすが未来だぜ!LGBTにも男の娘好きにも対応だ!
さらにもっと特殊な性癖もカバー!

うぃいいいいいいいいいいい↑っす! どうもー!

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どうした?貴重なグレイのシャワーシーンだぞ?

抜けよ。

 

 

さて、なんと本作、2019年7月現在
PS4?馬鹿言っちゃいけない。
Steam?何をおっしゃる。
スイッチ?とんでもない。
こちとらVitaのみだオラァ!!
そう、PSVitaのみで発売という漢仕様である。
手の込んだ自殺か?脳みそにUMDでも詰まってんのかを疑うところだが
気に入った。買ってやるか。と購入を決定。これが大当たりだった。

□つまりエンド&スタート、積み上げる弱い魔法。

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このゲームを説明するには以下の3つの言葉がキーワードになっている。
『ループ』『人狼』『役割変更』
とりあえず緩く頭に入れといてくれ。

まずはこのゲームを語るうえで重要な人狼のルールについてこのゲーム内での単語を用いて説明させてもらう。
わからない人向けに先にざっくりと説明すると
人間その中に紛れ込んだグノーシアとで、誰がグノーシアかを探り排除する、あるいは生き残る」ゲームである。

なお、本稿では知らないプレイヤーに混乱を招きたくないので人狼の詳細なルールは説明しない。
超基本的なルールのみ説明するにとどまる。
知りたい人はググるか、汝は人狼なりや?というWeb漫画辺りを見れば大体わかるぞ。(超絶雑なぶん投げ)

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↑疑う・かばうことから人狼が始まる。夜にはグノーシアによる襲撃が。

【基本ルール】

  1. 乗員と、乗員に取りついたグノーシアの二つの陣営どちらかに属する。*2
    誰が疑わしいか、誰は潔白かなどを発言し相手の正体を探る。
  2. ゲームは昼と夜の2ターン有り、昼ではキャラクターすべてが集まり
    誰をコールドスリープ(排除)するかを討論する。
  3. グノーシア達は夜に仲間内で相談を行い、
    乗員を一人殺害(排除)することができる。
  4. すべてのグノーシアをコールドスリープできれば乗員側の勝ち。
    生き残ったグノーシアと同数まで乗員が減ればグノーシア側の勝ちとなる。

レイジングループやフリューのロストディメンション等、
人狼をモチーフにしたゲームは結構あるが
実はこれほどガチンコで一人用人狼ゲームとして成り立っているのはかなり珍しい。

勿論人狼としてしっかり遊べる出来になっており、
最初のループ数回分は人狼チュートリアルとなっており
そこである程度人狼のルールと定石を理解できる。
自分もルールは緩く知っていたとはいえ耳年増な人狼童貞だったが
十二分に人狼を楽しめたのでそこは心配しないでよいと思われる。

さてこのゲームの良い点はまず何といっても
一周にかかる時間は10分から15分程度!
これがありがたい!
スキップ機能はないが、ボイスがないことからサクサクとページ送りされるためストレスもない。

ちょっとしたスキマ時間にポチポチ、休憩時間にポチポチ、
彼女が待ち合わせに遅れる時もポチポチ、
予想より遅れると連絡がきたときもポチポチ、
さすがに不安になって電話したが取ってくれない時もポチポチ、
僕が待っているのは忠犬ポチ像の前でポチポチ…ポチポチ…彼女は来ない…
空いた時間にちょっとプレイして…と2時間くらいたっているのがザラだ。
2時間経ったらフラれたんだよあきらめろや。

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↑敵も味方もループ次第。昨日の味方が今日の敵だったり逆もあり。

とはいえ、いかに人狼とはいえど普通にプレイしていると10週もすりゃ飽きるのでは?
と思うかもしれないが
このゲームは先述の通り各ループごとに役割が変わり、
同じくループを認知しているパートナーでさえ敵となることも多々ある

例えば先述のセツが初回のループでは献身的な味方(乗員)であったり、
あるいはこちらを疑う味方(役職持ち)であったり、
敵対するグノーシアであったりすることもある…というわけだが、
当然主人公もまた同じように乗員・役職持ち・グノーシア、バグであったりもする。

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↑好感度によっては常に自分の味方をしてくれることも。自由時間にイベントも。

さらに単純な敵・味方の役割が変わること以外に
好感度が(周回ごとに)変わることで様々な場面でのセリフが変わる。
また、味方同士じゃないと発生しないイベントなど、
特定の条件で発生するイベント等も変わってくる。

よーするにこのゲームではやってもやってもまだ見たことないイベント・セリフがあるのか!
驚かされるほどに多彩な顔を持つ。
イベントリストに載らないような細かなセリフやシーンも見どころで
特に普段は敵対するような発言のキャラクターでさえ
週によってはデレたりするので飽きがきにくい作りになっている。

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↑イベントが起こる周回に設定できる。イベントリストを埋めて物語を進めろ。

ある程度周回を重ねるとイベントが発生する条件をサーチし、設定が可能となる。
たとえるなら、クリスマスイブの夜に枕もとを気にしながら眠る子供のような気分だ。
どんなイベントが起こるのだろうか、何を見せてくれるのだろうかとワクワクドキドキが楽しめる。
実際にはイベントのトリガーとなるキャラクターが初日で排除され、
なんも起らなかったという肩透かしもあったりはするが…。

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↑レベルアップによりステータスが上げられる。コマンドも覚えられるぞ。

また、週を繰り返すことで経験値が溜まっていく。
レベルアップごとに6つのパラメータにポイントを振り分けていき
プレイヤーを強化していく。
※カリスマ・直感・ロジック・演技力・可愛げ・ステルス

スキル振りは自由なので様々なビルドが可能。例えば
ステルスを上げて好き勝手喋るし時折黙るがグノーシアに襲われない乗員
バカ高いカリスマを悪用して無実の乗員をレッテルを貼り疑いまくり潰しまくるグノーシアなんてことも可能。
特に後者は非常に楽しい。

無実の乗員にグノーシアの疑いを押し付ける。
バカ高いカリスマはある程度の理論のアホさを隠し、
そうだそうだお前が怪しいとの連呼になる。
ククク自分が正しいのに疑われる気持ちはどうだ?つらいか?苦しいか?
だがお前は排除される。誰もお前を愛さない。
楽しい!!

あるいは一人無実の乗員の味方になるムーブを見せつけ
好感度を上げていき最後の2人になるよう場を操作する。
傷つく事が怖いかね…失う事が怖いかね…信じる事が怖いかね…
だからこそ私はそんな君の…話相手になりたい。
まぁ俺はお前の敵なんやけどな!GAHAHAHAHAHAHA!
楽しい!!!!

性格が悪そうに見えるが、これこそが人狼の醍醐味だ。
他人を貶めたり、場をコントロールすることが楽しい。
グノーシア側の話ばかりになったが、もちろんグノーシアを追い詰める乗員側も楽しい。

なお、経験値は負けてもたまるのでいずれは必ずクリアできるようになっている。
能力が極まると少々強すぎるきらいがあるがそこはふり直しで調整可能なので安心だ。
(実際、ある程度のレベル以上でグノーシアになると負ける要素がなくなる)

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↑イベントリストを埋めたいだけなのに何度も同じ条件でプレイする羽目に…。

ただ、残念な点はやはり何か所ある。
このゲームをクリアするにあたってイベントリストを埋める必要があるが、
条件が厳しく、発生しないことがあることも多い。
いわゆる通常のADVと比べて物語を進めるのに運要素がいるというのがじんわりとネックになる。
あと1・2個を埋めてお話を進めたいのに長く足踏み状態になり、イライラさせられた。

また、細かいが重要な点としてセリフのバックログ確認機能がない点はよろしくない。
議論の中で誰が疑わしいと発言し、誰が真っ先に反論したか。
…までは簡潔にまとめられて見返せるようになっているのだが、
疑い・反論に乗ったキャラやわからないため、
「こいつらいつも擁護しあってんな」(=両方グノーシアの疑いがある)というラインがあとから分かり辛い。

また、議論の場とは別にイベントシーンでも重要なヒントがさらっと出てくることがある。
致命的ではないが半殺しレベルのマイナスポイント。
正直なところこれはかなり不便でよろしくなかった。

これについては無策だから
気になってプレイしたくなった人はセリフを噛み締めるように読んでくれよな(力技)

□命の終わりに。上質なメタフィクションとしてのグノーシア

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↑グノーシアとは悪である。さて、本当に?

名前とタイトルロゴを見るに、おそらくグノーシアの元ネタは
1世紀に生まれ、3世紀から4世紀にかけて
地中海世界で勢力を持った宗教・思想「グノーシス(主義)」と思われる。
Wikipediaコピペもろばれだわさ。

これは雑に言ってしまうと
「今生きてるこの世界は悪の宇宙であって、善の宇宙があるはずだ」という考え方。
これは役割変更・ループにかかっている。

このゲームがループものでありながら少し捻りが加えられている点として、
いわゆるα世界線を何度も繰り返す(そしてループを打破する)という従来のループものとは違い
1週目はα世界、2週目はβ世界、3週目はγ世界‥‥と
それぞれで違う世界線に飛び、同じ世界には(まず)戻れない、という点だ。*3
ゆえに、コールドスリープはともかく、
グノーシアに襲われたキャラクターはその世界では確実に命を落としている。
当然ながら復活せず、ただひたすらに死ぬ。
本作の序盤で語られる大前提どおり「グノーシアとは人類の敵である」わけだ。

しかしプレイする中プレイヤーは様々なグノーシアを見る。

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↑生きてきた人生が人を変えるように、グノーシアもまた色々な顔を見せる。

グノーシアに感染したキャラクターは
その残虐性を発揮するキャラクターもいれば
全く逆の行為に走るキャラクターもいる。

いくつかのグノーシアには素直にドキリとさせられた。
個人的に大好きなのは人間の為に命を捨てるグノーシアが起こす「グノーシアはいなくなった…」というイベント。
このイベントで「うわぁこのゲームおもしろい(語彙力)」となった。

改めて言うがグノーシアや人間、どちらもループの中で真剣という点が大きい。
彼らにとってはその世界線こそが現実であり、命は一つである。
故に死活問題、故に必死、しかし時にその命を他人の為に使う。

限りある生だからこそ美しく、儚く、胸を締め付けられる。

だからこそ面白い。
命の輝きにこそ光るものがあるのだと。

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↑世界が複数あり移動することを理解している唯一無二のパートナーセツ。すき…

そしてもう一つ、本作はまた新しいメタフィクションの形を作ったことだ。

メタフィクションの代表例、俗にいう”第4の壁を破る”の大半は
「キャラが視聴者(プレイヤー)に直接語り掛けるもの」が多かった。
映画「デッドプール」などは明確にキャラクターがプレイヤーに語り掛けてきたっしょ?

でもゲームはいろんな手法でもっとプレイヤーを取り込める。

昨今のゲームのちょっとした流行としてプレイヤーをゲームの中に入れたがる。
最近でいえば、VR(例えばサマーレッスンのように)による直接的なものや、
Undertaleのようなシナリオ外のプレイヤーの行動をそのままシナリオに反映するようなものだ。
古くは「こんなゲームにまじになってどうするの」のたけしの挑戦状みたいなやつだってある意味そうだ。

ちょいと小ネタの領域だが、ADV「シュタインズ・ゲート」は
ゲーム起動した時点でトロフィーを一つもらえる。
プレイヤーの介入にこそ物語のトリガーがある、という演出だ。

こういった小ネタやシナリオ全体でガッツリとプレイヤーをゲーム内に内包しようとするのものが増えている。
単純にそういった作品が連続した、ヒット作に続いたというのもあるだろうけどね。

このゲームの場合は、
プレイヤーが直接キャラに会いに行く
という唯一無二のメタを可能にした。

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↑会いに行こう。行きたいところに行こう。あの子の元へ。今すぐに。

どういうことか?というとおもっくそネタバレになってしまうが、
この物語における最後の最後のオチはまさにそのキャラクターに会いに行くことがトリガーになっている。

気づいたとき、あった時、そして感謝されたとき。

嗚呼、そこにいてくれてよかった…!
嗚呼、このゲームをしてよかった…!
嗚呼、君に会えてよかった…!と心から思えた。

その条件は非常に自然に、誘導されるように、吸い込まれるように気づけるだろう。
このあたりの上手さがクーッ、見事。

是非プレイしてこのキャラクターに会いに行く、という感覚を得てほしい。

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□総評

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まさにVita(命)の最後を飾る傑作だ。

とにもかくにもVitaの最後を飾るタイトルとしてこれほどふさわしいタイトルはあるだろうか。
Vita最後の独占、プレイヤーの評判もいいから恐らく移植される。
Vita(命)の最後、世界線(ハード)を移動するゲーム性。

狙い澄ましたかのようなゲームだ。
けれども折角ならまず最初のハードでやるってのもオツだろう。

あなたのVitaの最後にこのゲームを飾るのはいかがかな?
きっと、多分。気に入ってくれるはずだ。

じゃあ、俺が会ったあの子にヨロシクな!

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↑いえいえ、こちらこそ。

 

 

*1:概要欄では便宜上「彼女」としたセツも汎だ。おそらく主人公の性別が選べるためかと思われる。

*2:バグという第3の陣営があるが、煩雑となるため本稿では割愛。

*3:世界線…いわゆるパラレルワールドと同義という認識でよい。