高校生に戻ってやりたいことと言えばロボットに乗ることだよね。
今や寝る前にする妄想ですらロボットに乗らなくなった大人ですこんばんわ(挨拶)
さて、発表→発売から4年近くかかったという狂気の沙汰を乗り越えてついに発売された本作だがそれだけの価値はあったのか?
ジュブナイル・SF・ロボット・タイムトラベルと男の子が大好きなもんよくばりセットで詰め込まれた『十三機兵防衛圏』をレビューする。
なお、例によってネタバレは公式サイトを見ればわかる程度まで抑えていますが
買う気があるなら素直にとっとと買いに行け、といっておきます。
俺なんてトロフィー取得ツイートでネタバレを食らったぞ。ええから買え。
ではよしなに。
□概要
叫び惑う人々の中をかき分け、彼は急ぐ。迫りくる敵へ走る。
崩壊した日常、歩道橋の下。目の前の少女が叫ぶ。「機兵、起動」
姫に仕える騎士のように膝まづき、相対する怪獣のようにそびえ立つ機兵。
ここから始まるは人類を守る最後の戦い。15人の少年少女、
13人の主人公、
5つの時代の真実、
たった1つの冴えたやり方。これは物語。
世界を解き明かし、彼らが機兵に乗るまでを描く物語。
これは物語。
彼らが生き延びるための物語。
↑三つのモードはそれぞれ非常に濃厚。主人公は何度も言うが13人という大所帯。
さて本作、公式サイトでもバラされてるが
タイムスリップSFアドベンチャーゲームである。
1945年(昭和20年)、1985年(昭和60年)、2025年、2065年、2105年…と
40年単位で区切られた時代を行き来しつつ物語が各主人公の視点から描かれる。
本作は三つの軸(ゲームモード)があり
シナリオ(ADV)の「追想編」、戦闘(シミュレーション)の「崩壊編」、
ファイルアーカイブを確認できる「究明編」の3つで構成されている。
また、物語の全体図としては
プロローグ⇒各主人公(13名)視点の物語⇒終章(各お話の合間に戦闘がある)
という割とポピュラーな物語の設計となっている。
ただ、ポピュラーな作りの反面、
物語自体は非常に複雑に絡み合った13本の紐で作られた1本の撚糸(よりいと)となっている。
各キャラクターの視点(物語)によって時系列自体は結構バラバラなんだが
パラレルワールドではない全て同一の時間軸で起こった事象、物語になっている。
↑十郎視点では何故か困ったような笑顔の少女。物語を進めると…
一例を挙げると十郎のこのシーン。
十郎視点では一見何でもない会話だがシナリオを進めるとこの何気ない会話、五百里(真ん中の女の子)の表情の意味が分かるようになっている。
こういった細やかな伏線が多く、そしてそれらをすべて解消する。
また、主人公Aの物語でBが登場した場合、Bの物語でB視点のAが登場するようになっている。(回想や夢といったシーンのものは除く)
他のADVにおいてはルートによって主人公が見た会話やシーンが別視点になると無くなることもあるがこのゲームは全て拾う。マジで拾う。
何気ない日常のワンシーンすら拾うのでえっマジでここもちゃんと描写するの!?と舌を巻く。(100%すべてを拾うわけではないのでそこはちょっと残念)
上記の例はこの記事を書くにあたってスクショを見返してて気づいたので
もし買った人はちょっと気になる点、具体的には
各主人公の物語で別の主人公が出たシーンをスクショ取っておくのをガチでお勧めする。
そして後でスクショを見かえそう。
うわっこのシーンあれじゃん!(語彙力)
と滅茶苦茶驚くぞ。
↑物語はフローチャート式。一見多く見えるが適当にプレイしてても埋まる。そして物語には進行度が。
これはあくまで僕の予想だが、
一旦全ての事件を時系列順に整頓したうえでフローチャート化し、
プレイヤーに興味をひかせるようなシナリオ構築にしているのだろう。
これね、言葉でいうのは簡単だが、凄まじい気合と作りこみですよ。
物語を作るうえでまず時系列(年代表)を書くとか普通やんないっすから。
実質FSS(ファイブスター物語)ですよこれ。
物語そのものは時代のジャンプや回想が頻繁に入り、
謎らしい謎がずーっと解決せず引っ張られるため分かり辛いものの、
各物語は10分~15分かからずスイスイと読める。
さらにバックログ、早送りも充実しており、ストレスは薄い。
UIに煩い僕もこれにはニッコリ。
↑黄昏サラウンド。美しい蒼で描かれた夜景にはほう…とため息を吐いてしまう。
そして美しさと怨念に近い執念を感じる2Dグラフィック。
そりゃ発表から4年もたつわこんなん作ってたらと納得の一本。
シナリオにせよグラフィックにせよ製作者の鬼気迫るような執念を感じる。
ええか、国内のゲームは思うとる予算の倍をかけぇ(千鳥の大吾)
と思ってる僕もこれにはニッコリでもうニッコニコ。
気持ち悪い笑顔でゲームを進めてイケたぞ。(ニチャア…)
□物語と密接にリンクする戦闘。ただし、
↑緑色の大きなタワーを守るのが目的。コマンド選択時は時間が止まるのでゆっくり選択しよう。
戦闘はRTS(リアルタイムシミュレーション)風のタワーディフェンスになっている。
といってもRTS風というだけでいうほどガチガチではなく、
行動順が回ってきたら時間が止まり、
ゆっくりとコマンドを選択する余裕もあるし、
コマンドを選択するとプレイヤーは即時行動が発生する。
↑フリーダムよろしくマルチロック。敵を一掃できるのはかなり爽快。
コマンドを選択し、範囲を指定し、そして放つ。
一部特殊条件はあるものの、基本的には敵を全滅させるか
制限時間が0になるまで耐えれば勝ち、というゲームになっている。
といっても制限時間なんてもの飾りです。
スコアもあるので基本的には殲滅させるのがプレイヤー的な目標となります。
↑Sランク自体は物語を理解するためにも必須。ロボは武装・ステータス両方強化可能。
戦闘終了後のスコア表示については
うまく戦えばSランクを取得しアーカイブファイルが貰えるし
MVPキャラは経験値にボーナスが入るなど割と張り合いがある。
派手な演出とバリバリ喋るキャラクターが画面を彩り、結構楽しい。
フリーダムのマルチロックよろしくぶっ放せるのは爽快感もある。
シナリオとも密接にリンクしており、
追想編のシナリオロックの解除方法として、崩壊編を進める必要がある。
ただそれとは関係なく結構シコシコと進めてしまう程度には魅力はある。
しかしながらゲームとしてはかなり浅い。
武装の解放にはターミナルという施設のレベル上げが必要なのだが
これは敵を倒したときに得られる経験値のようなもので上げることが出来るのだが
ものすっごい必要経験値が低く、ポンポン上げられる。
そうすると強力な武装が簡単に開放できるわけなんだがまーヌルくなってしまう。
特に序盤は強力な武装を開放し、敵が出現(リスポーン)されたタイミングで
その場所に武装(ミサイル)をぶっ放すという
FPSでいうところのリスポーン狩りを繰り返す作業になってしまう。
また、本作は道の概念はあれど、高低差や壁といった概念が無い。
と、なると難易度を上げるのであれば
必然的に「固い敵を出す」のと「物量推し」となる。
↑敵の種類は物凄く豊富。でも結局ミサイルぶっこんでどーん!で一旦掃除してからちまちま倒すのみ。
後半になると確かに難易度は上がるのだが、それはまさに敵を固くし物量を増すのみ。
僕の考えるシミュレーションゲームの面白さって「シチュエーション萌え」なんですよ。
例えば劣勢のプレイヤーが数ターン何とか耐えて、後から援軍が来て挟撃する。
みたいな盤上をひっくり返すところに萌え(ロマン)がある。
本作は概念があまりにも少なすぎるためそういうシチュエーションを一切作れない。
最初は爽快感があってええ戦闘やんけ!と思ってたが後半になればなるほど作業化する。
あくまでADVのおまけとして見るほうが良いだろう。
という少々残念な評価に落ち着いてしまったかなと。
過度な期待をやらせはせん。やらせはせんぞ。
□本作の最大の魅力。シナリオについて
↑驚くほど恋愛がベースになっている物語。ん?いまなんでもするって。
本作、大きな特徴として2点。
ジュブナイルを謳っていることもあってか
非常に恋愛要素の強い物語となっている。
比喩抜きでほぼすべてのキャラクターに恋愛対象がおり、
一部のキャラクターに至っては恋愛成就自体が物語の目的だったりする。
ただ、ジュブナイル(十代)のさわやかな恋愛模様だけではなく、
物語のエンジンはドロドロとした恋慕、いや愛憎に近い感情だ。
それらが物語を動かす。
↑徹底的にミスリードと伏線を張り続ける序盤。謎と疑惑が不信を煽る。
また、序盤は特に顕著なんだがミスリードの量が半端ない。
詳しく話すとネタバレにしかならないので言えないのが悔しいが
最初から最後までガツガツとてんこ盛りの伏線とミスリードまみれの
心底意地が悪い、いや意地汚い物語である。
そんな汚ねぇ物語でありながら
あまりにも綺麗に丸っと収まるという驚異。
一応未解決の謎はあるが
(自分もクリア後にあれって何だったんだろう、というのはあり考察サイトを見た)
キャラクター達それぞれはきっちりとふさわしい完結を見せ、
さらにはえっまさかそのキャラも収めちゃうのか!?と
ジグソーパズルで自分でも忘れていたピースがパチッとハマるような妙な快感があった。
もう一つ、各キャラクターのシナリオのエンディングにはとある特殊な演出がある。
これ、物凄くカッコいいしぐっと盛り上がる素晴らしい演出になっている。
この演出を見るために最後まで付き合ったみたいな部分はある。
詳細は控えるがぜひ堪能してほしい。
↑比治山は結構好きなんだが後半に行けばいくほど興味が無いキャラクターが残っていく…。
ただですね、3つ不満がある。
全て上手く丸っと収まった綺麗なシナリオではあるのだが
いかんせんやはり主人公が13人というキャラクタは多すぎた。
13人という大風呂敷を以下に上手く収めるのか?
という非常に大きな命題に対して乙女座の私には、スペクタルな浪漫を感じずにはいられない。
…のだが、ネックとして主人公に好き嫌いが出ちゃう。
つまり、この手の主人公が一杯いるゲームにありがちな、好きな主人公を優先した結果、
興味のない主人公が最後の方に固まってモチベが低下する。
という現象が起こってしまう。
特に自分は「物語の真実」という言葉にあまり興味が無く、
キャラ萌え、カップル萌する人間。そう、
私はかつて、カプ厨という名で呼ばれたこともある男だ。
なもんで鞍部・関ヶ原周りのキャラクターの物語が完結すると、ガクッとテンションが下がってしまった。
てか進行度の関係で後半になるキャラクターの大半があんまり興味がわかない奴らばっかだったのもキツかった。
↑崩壊した世界。なぜ?誰が?その主犯は一人ではない。アーカイブファイルは時系列も完全サポート。
もう一つ、「この物語の主犯あるいは黒幕は誰?」と聞かれたら俺は
3人くらい名前を挙げるレベルで物語の構造が複雑な点。
しかもこれ、人によってはあと一人追加されたり、一人対象外になったりと人によって人によって見方も変わる。
アーカイブファイルなどでその辺りの詳細が分かるようになっているが
正直なところ、きっちり頭使って見ていかないと置いてかれるぞこのお話。
馬鹿には向かない作品ではある。僕はアホで間抜けなのでセーフです。
↑ジュブナイル・恋愛・ロボット・SF…これらが琴線に触れないならば合わないかも。
んで最後に。
つまるところ結局シナリオ極振りのゲームなので
シナリオにノレないとキッツイよ。
というご無体な話。
いやADVならどうしようもないやーん。という話だけどね。
十代の少年少女が!
ロボットに乗って敵をシューッ!超!エキサイティン!
となれる人じゃないとキッツイし
中盤以降は
謎が謎を呼ぶSF全開の物語!
タイムスリップで世界の謎をシューッ!超!エキサイティン!
となれる人じゃないとキッツイ。
自分は序盤から中盤は凄くハマったのだが物語の全容が明らかになり始めた頃、
そして贔屓の主人公が終わったあたりから大分モチベーションがガタ落ちしてた部分はある。
上記でも言ったが「世界の謎を解き明かせ!」よりも気に入ったキャラクターがどのような運命をたどるのか、
という点に興味が湧くタイプなので辛い部分がありました。
ただ、そうはいっても他のゲームを置いて進めるだけの魅力と牽引力はある。
この作品のシナリオの魅力は徹底的に引っ張り続ける謎の多さ。
そしてそれを放っておかず、必ずオチを付けるという
”美しい”と感じてしまうほどの完成度。
ゲームで初めてかもしれない、機能美という言葉を使ったことは。
それだけの衝撃と歓喜に見舞われた作品だ。
興味があるのであれば是非ネタバレを踏む前にプレイしてほしい。
□総評
傑作と推す人も多いが個人的には良作。
という感じ。
言った通り、僕的な物語のピークは好きな主人公の物語の終わり部分なので
物語が畳まれていく流れが正直今一つ琴線に触れない部分はある。
ただ、一点物凄く評価したいこととしてこのゲームって
DLCでシーンの追加とか絶対できないってくらい完全に終わっているという点。
本作ハッピーエンドなのかバッドなのかトゥルーなのかメリーバッドエンドなのかはここでは控えますが、
これ続きを書くのは無理だし、間に追加シナリオを入れるのも正直難しいってレベルで完成してます。
最近多いじゃないっすか。
アップデートで追加してくよとかのたまって未完成品を売りつけるゲームメーカー。
UIとかバグフィックスならともかくシナリオを追加されるのは割と辟易するのでマジで嫌いなんです。でもね、
このゲームに関してはマジでそういう心配はない。
これを寂しい、と感じてしまう人もいるかもしれない。何でもいいから続きを見たいと思う人もいるだろう。
でもこんなコンテンツをいかに長く持続させるか?というご時世で
こんだけきっちりとした”終わる物語”を何年もかけて作ったんだ。
その意気込みを買おうぜ。買ってやろうぜ。
ぜひあなたも
時代を無視して時間をかけて作られた”時空を超える物語”を堪能してほしい。
ああ…ヴァニラウェア。刻(とき)が見える…!
はい、これが言いたかっただけです。という雑なオチで〆。
↑「終わる」ということの美しさをあなたにも。