ホスピタル病院

自分をモヒカン社畜だと思い込んでいる17歳JKのブログ

そこらへんの大人も通った森。『Night in the Woods』レビュー

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大人になんてなりたくないと思っていた時期が僕にもありました(挨拶)

さて、人間には子供と大人という2つの分類わけがある。
しかし、子供から大人に移行する時期、というのは何と呼ぶのだろうか。
そんなことを考えさせられた「子供が大人になろうとする話」である
『Night in the Woods』(ナイトインザウッズ)をレビューしよう。

なお、本稿は物語の核心部分にあたるネタバレこそしないがゲーム性や(自分が考えた)本質を語っている。
よーするに、事前に知るとやや面白さが削がれるのではないか、という懸念がある。
ゆえにプレイする気満々、むしろ購入を済ませてるが積んでいるぜって人は
本稿を読むのを避けるべし。よしなに。

 

 

□前置き。

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さて、はじめに言っておく。
非常に評価が難しいゲームだ。
ゲームの面白さという点において
10を最大、0を最低、5を真ん中とすると
最終的には6~7程度にはなるが物語における約半分の期間が1くらいであった。

あえて自分が嫌いな表現を使う
「刺さる人にはぶっ刺さって10になる」と思う。

なんで自分が「刺さる人には刺さる」というワードが嫌いかというとそれは
「自分はこのゲームが気に入らなかったが面白いと思う人はいるかもしれない」
ということを直球で言うと角が立つので綺麗に言いたいという意思が見え隠れするからである。
つまり、自分の保身が先にあるように見えるからだ。

ゲームメディアのレビュワーは仕方なくこの表現を使う人間もいるだろうが
ならせめて刺さる人はどういう人なのかを言うべきでは?
個人ゲームブログの人間なら素直に「つまらなかった」と言えばいいのにって。
・・・とはいえそういった「本音」を隠すのが”大人”なのだろう。

そういったものが隠せないお年頃の「メイ」が本作の主人公だ。
さぁ本作の紹介に移ろう。

□ゲーム概要

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↑黒猫メイ。大学を辞めて田舎に戻ってきた少女。絵描きに拾われたりはしないし頭にKもつかないぞ。

大学を辞めて自分の田舎に帰ってきた主人公「メイ」。
ってーかアタシのことなんだけどさ。
こーいうのってさ、アメリカのホームコメディなら
温かく迎える両親や旧友がいて
大学の頃より明るく楽しい生活が続いて
たまに事件もあってビシッとアタシが問題を解決!ハッピーエンド!なんだろうね。
でもそうじゃないんだよ。
これそういうゲームじゃないから。

さてゲーム画面をパッと見ての分かるとおり、
動物が人間のように暮らしている世界観となっている。
これは別に主人公の心理状態が見せている幻影というわけでもない。
こういう世界なのだ。

一見横スクロールに見えるが、
特に敵を倒したりだとかお金を稼いだりとかはない。
というか、例えミニゲームであってもスコアに当たるものが一切無い。
使うボタンもシンプルで×でジャンプし□で喋るといったアクションを起こす程度の
シンプルな純然たるアドベンチャーゲームである。

f:id:exa_axe:20190615223042j:plain↑デカい敵と大バトル!…なんてものは一切ない。これは彼女の心理が夢として表れている。

さて、本作についてはフォロワーとの飲み会時にオススメされ、
「これどんなゲーム?」と聞いた記憶があるが、明確に説明をされた覚えが無い。
屋上に誘われたわけでもアイスティーを振舞われたわけでも無いが記憶に無い。
確かアドベンチャーだよ、ということだけ言われたような言われなかったような。

実際カテゴライズするのはほぼ不可能なジャンルだ。
ジュブナイル(10代の冒険)とも青春とも言いがたく、ましてやサスペンス・ミステリとは程遠い。

ちなみにプレイ後に見たPLAYISM公式のPVは
一切物語が分からずジャンルも分からずどういうゲームかすらもわからない最低レベルのPVだったので爆笑した。
読者は是非クリア前とクリア後に見てみよう。

youtu.be

そしていざゲームをやってみるとなるほど、これは説明に困る・・・・。
というような内容であった。

□3つの軸、3つの視点、3つの人たち

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↑母(と父)という大人は子供を心配する。旧友は仕事の合間に「付き合ってくれている」
さて、このゲームは一貫して主人公メイの視点となっているが
ストーリーには大きな3つの軸があり、
それらが同時進行していくお話となっている。
1つ目は「子供」のお話。
2つ目は「大人になろうとする人達」の話。
3つ目が「大人」の話である。
主人公は大学を辞めて家に舞い戻った…というと
モラトリアム人間的な物語をイメージするかもしれない。
大人になりたくなーい、自分はここにいるべきじゃなーいみたいな子供のような話。
まぁ正解だ。100点じゃあないけど。

で、このゲームは何をやるのかというと主人公とプレイヤーには共通の目的がある。
「やるべきことを探さねばならない」という目的が。

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↑目覚めて、眠る。一度たりともこのパターンから外れることはない。

分かりにくいと思うので順を追って説明しよう。
まずこのゲームをミクロな視点で見ると
朝彼女が目覚め、夜に眠るまでの一日を繰り返す物語だ。
朝と夜、ベッドから目覚めベッドに眠るのは欠かさず繰り返す。*1
そんでたまーに暗い森の中を歩くような夢を見る。

ゲーム内で朝起きた際に主人公から
「今日は遊びにいこう!」だとか「バイトに行かなきゃ!」といった
そういった一日の目標というものは一切出てこない。
とりあえずパソコンの電源を入れるあたりはオタク・シンパシーを感じなくもないが。

例えば牧場物語なんかは同じように1日が始まり、特に一日の目的も提示されないが
「プレイヤーはやるべきこと・やりたいことがわかっている」
しかし本作は
プレイヤーがやるべきことがわからん。
やりたいことがわからん。

のである。そしてそれは主人公たるメイ自身もである。

しかし時間は何かをしないと過ぎ去ってくれない。
ゆえにプレイヤーと主人公は
街にあるであろう「時間を潰す何か」を探しに行くという目的でシンクロする。
このゲームデザインは素直に見事。

・・・見事なのだがジャンルというか傾向がまず分からないので
やっててひっじょーに詰まらんのである。

このゲームはおおよそ8時間程度で終わる。
その内4~5時間程度が非常に丁寧に下地を整えつつ伏線を張って行く。
この5時間がめっちゃキツかった。

原作はわからんがおそらく”質がいい”とわかるローカライズによる軽妙な台詞はある。
なんとなくポップで可愛いキャラはいる。
しかしながら物語の全容も目的も分からない時間が続くとあーこりゃキッツイ。
たった8時間のゲームでありながらクリアまでに1ヶ月以上かかった、というとキツさをなんとなく理解してくれるだろうか。

しかし、物語におけるブレイクスルーは唐突に現れる。

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↑正論でまくしたて白黒つけようとする黒猫メイと灰色であろうとする緑鰐ビー。

メイの昔からの友人「ビー」である。
彼女は父と共に商店を営んでおり様々な細かい経理なども携わっている。
父と共に・・・とは言うが妻、つまりビーの母が亡くなって後
父はノイローゼに近い状態となっておりビーが何とか支えている状態となっている。
さらに言えば商店の従業員の中には勤務態度に問題のある人間がいる。

こういった状況をツイッター発言小町といった”ネットの闇”で言えば
恐らく「親を捨てるべきだ」「従業員を変えるべきだ」「逃げるべきだ」という”正論”が飛ぶ。

しかし、社会に出たことのある人間なら分かるだろう。
世の中は最後の金勘定以外はかなりファジーに回っているということを。

しかしメイは知らない。だからこそ正論を言う。
そしてビーは激昂した。
何も知らずにグチグチいうな、私が頑張らなければ家族は終わると。

ようやくここで自分はこの物語を理解した。・・・と思う。
3つの軸の物語。
そう子供であるメイに対して旧友たちは「大人になろうとしている子供」達なのだと。

□大人になりたくない。ずっとトイザラスきっず。

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↑時には悪さもするが支えとなってくれる友達。良いやつらだぜホント。

このゲームがジャンル分け出来ないのはこの
「大人になろうとしている子供達」の世代や生活を表現する言葉が無いからだと思う。
ヤングアダルト…という言葉はあるがピンとくる人間は多くはないはずだ。

10代はジュブナイルあるいは中高生と同じく青春、大学生はキャンパスライフとあるが
例えば高校卒業後すぐ就職した人間は18歳(未成年)でありながら働くがそれを成人とは言わない。

この主人公メイというのは幼い。17歳JKの自分から見ても幼い。
20歳というのは少女を名乗るには遅すぎ、淑女を名乗るには早すぎる年代だ。
でも大学を辞めた20歳は「20歳」としか表現できないし、20歳といえば強制的に成人(大人)として扱われる。
どんなアレな奴だろうとね。

では19歳と364日生きた子はなんなのか?というとやはりピンとこない。

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↑夜の森の中を歩く夢を見るメイ。どこに行けばいいのかわからんがとにかく動くことから始まる。

このゲームはモラトリアムな要素を持ちつつも殆どの人間は現状を受け入れつつ前に進んでいる。唯一主人公メイだけは若干別だが。

メイの夢の中でも再三現れる
”「森の中の夜」に迷い込んだようなここから脱出(で)なければならぬ。
しかしどう行けば、何処に行けばよいのかわから無い”という

メイの心理状態を理解しゲームのつまらない部分がここと重なることを理解する。

なるほど、このシンクロを味あわせるためのゲームなのか、と納得すると
ようやくこのゲームに光が、色がつく。

夜の森の中であっても少しの明かりさえつけば紅葉が赤いことに人間は気付けるんだ。

問題はこのゲーム性に気づくまでに時間がかかり、それまでが正直つまんないことだが。

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大人になろうとする子供たち=旧友達は消化できない問題を抱えつつ毎日を生きる。
正論で潰そうとせず、ぐっとこらえて日々を生きている。

成人だが大人でないメイだからこそ他人に平気で「求められてもいない正論」をぶつけられるのだと思うと
何というか「アイタタタ・・・」となってしまう。

この痛さは刺さる人にはぶっ刺さるけれども、刺さらない人には一切ぶっ刺さらないと思う。

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↑唐突にみつから死体の腕。なおイベントが起こるとメイの手帳に記述が増えていく。これは素直に良い。

さて、最後の3つ目の軸は
「バラバラ殺人事件」をベースにした大人たちの物語である。
…と言ってもこの話についてはあえて一切匂わさずに本稿を閉じようと思う。

気になる子猫ちゃんたちはプレイしてみるといい。
出来れば序盤で投げないでいてくれると嬉しいが。

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このゲームについていろいろなブログや実況動画を見ていると、
「生き辛い人に向けた物語」だといわれているが
こんなん全員に起こる物語だと思う。

子供から大人になるのは誰にでも起こる。
でもそれは19歳の365日目に起こる現象じゃない。
大人ってのは子供が大人たろうとしたときに初めて大人の階段を上る。

これは
誰にでも起こる、子供が大人になる物語。
だから誰がやったっていい。
とりあえずこれだけ頭に入れてからプレイするとグッとやる気は出ると思う。

 

・・・さてこれはせっかくだから語りたくなった蛇足だ。
ゲーム内8時間という短い時間の中で
子供たるメイにフォーカスがあたる時間が最も長く、
次に「大人になろうとする子供」、そして「大人」とゲーム内でフォーカスする時間が
どんどん短くなるのは人生の体感時間とあわせているんじゃないかなーと考察している。

そう思うんだ。違ったらごめんな。

□総評。

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↑充実した音楽ミニゲームもある。ただ難易度は高かったり…

評価は非常に難しい。
プレイしながらつまらない時間の間に様々な考察が必要となる。
考察をしないままこのゲームをのんべんだらりとプレイするととても辛いと思う。

自分も先述した構造の意図に気づいてようやく評価を上げたが
読者には今言っちゃったから評価上げようがないよな。メンゴメンゴ。

そして先述したとおり痛さこそがこの物語の肝なので、そこが刺さらないと駄目。

かつて子供だった人があーこんな痛いやつがいたなと、
いま大人になろうとしている人があーこんな痛い時期があった
そして子供がこんな痛いやつにはなりたくない
それぞれがこの痛さに感情を揺さぶられないならこのゲームは非常につまらないゲームになるだろう。

なお、個人的におススメするのは”今大人になろうとしている人”がやることだ。
誰にでも起こるその坂道を超える一助になれば嬉しいなと思う。

まぁこのゲームの構造を考察してない序盤は実際自分もキツかったし、
フォロワーからのススメが無かったらブン投げてましたからしっかり対象を狭めておススメしとくね。

んで、僕は大人なので、この言葉で終わろうと思う。
ぶっ刺さる人にはぶっ刺さるよ。と。
正論でシロクロはっきりつけるより、灰色にして明日に回せるのも大人の特権だってことで!

f:id:exa_axe:20190616011929j:plain↑とりあえず難しいことは明日にまわして今日はピザでも食おうぜ!

 

*1:念のため補足するがループ物では無い。