ホスピタル病院

自分をモヒカン社畜だと思い込んでいる17歳JKのブログ

人間-ひと-を描く脚本。『JUDGE EYES -死神の遺言- 』レビュー

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「マリオを動かすだけでもおもしろい」と言ったファミ通レビューがある。
40点満点だったこともあり、ネタにされたがこの気持ちはわからんでもない。
(正確にはマリオの挙動がキビキビしてて操作感が気持ちいい、ということだろうが)

特定のキャラクターを動かせるというだけで評価が上がることは良くある。
無双シリーズ格闘ゲームでキャラクターが削除されると評価が下がるように
プレイヤーはキャラに積み重ねた思いいれを持ち、
そしてそれが動かせたらまぁまぁ満足しちまうものだ。

じゃあ最初から皆思いいれのあるスターを動かせばいいよね!
珍しく頭を使ったSEGAが放つ、
キムタクに始まり、しかしキムタクに終わらぬゲーム。
『JUDGE EYES-死神の遺言- 』をレビューする。

 

 

□こちら御通しのキムタクでございます。

f:id:exa_axe:20181223013420j:plain↑ご存じキムタクこと木村拓哉。彼をキャスティングできた時点で"勝ち"みたいなもん。

ぶっちゃけこのゲームは「龍が如くmeetsキムタク」つまり
「キムタクが如く」と考える人が多いはずだ。
しかし自分は、「キムタクが如く」以上だと言いたい。

さて改めてまずはキムタクについて説明しよう。
キムタクとは木村拓哉である。
当たり前じゃねぇかと思うかもしれないが、その木村拓哉は一言では言い表せない。

本業はアイドルだろうが、彼の場合「ドラマの主役」をやる人間である。
それでいてコントでは妙なチャラ男のコスプレもするし
歌って踊って演技してふざけて料理もしてと正しくマルチな活躍をする人間だ。
彼の全盛期を知っているならばどうしたって避けることが不可能だった。

そんな彼を指して「キムタクは”キムタクの演技”をしている」といわれることもあるが
木村拓哉に求められるのはキムタク役なのだから当然だ。
ここまで来るともはやキムタクとは概念。

彼を指して「ドラマの主役をやる人」は合っている。
「コントする人」「歌を歌う人」「踊る人」「料理をする人」全て合ってる。
その概念と化したキムタクを余すところなく魅力的に描いたのがこの「ジャッジアイズ」だ。

□キムタクと龍が如くが出会って化学反応を起こしてスパーク…

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↑左は3年前の弁護士タク、そして右は現在の探偵タク。ルックスは(どっちも)イケメンだ。

一旦閑話休題として本ゲームの紹介に移ろう。

キムタクが演じる主人公、弁護士の”八神隆之”が
とある事件を請負、見事無罪にしたことから物語は始まる。
日本において無罪判決というのは非常に珍しく
彼への賞賛と仕事の依頼が絶え間なく押し寄せる中、
なんとその無罪となった男が放火殺人を行ったという連絡が入る。

無罪と信じた人間が何故このような凶行に及んだのか。
裏切られた怒りと悲しみ、そして
「そのような凶行に及ぶような人間だと見抜けなかった自分の目」に八神は失望する。

――3年後。
連続殺人、それも眼球をくりぬくような凄惨な事件が世間を騒がせている中
借金回収の仕事のため神室町を走り回っていた探偵がいた。
それは失望から弁護士を辞めた八神。
彼は過去所属していた弁護士事務所に協力する形で新たな事件に巻き込まれる。
そしてその事件は八神自身の過去をもう一度見つめなおす大きな事件のほんの序章に過ぎなかった・・・。

というのがおおよそのあらすじだ。
タイトルどおり目(眼球)に関連する物語であり、
眼球をくりぬく連続殺人から始まり、八神の容疑者の真偽を判断する目、
目を背けていた過去、そして物語全体の大きな部分にかかわってくる。

ゲーム全体は上述のとおり「"キムタクが如く"以上」。
ドラマのような一話単位で区切られた形式で描かれる
新宿・歌舞伎町をベースにした神室町を中心とした
任侠・極道、利権といった裏社会を舞台にしたゲームである。
当然ながら今日からヤの付く自由業!の面々がメインで出てくる。
大きく違うのはここに法曹界と探偵物のエッセンスを取り入れていること。

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探偵モノらしく尾行や捜査パートが用意されており、ピッキングなんかも出来る。
世の中の創作物は探偵に夢を見すぎじゃね?と思わなくも無いが
まぁキムタクだし出来てもおかしくないよな。拓哉はダンスやってるからな。

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裁判パートは基本的にはクイズに近い。
質問に対して適切な証拠を突きつける、というだけ。
と言っても果たして本当に現実の裁判でありえるのか?と思うような
アクロバティックな答弁もあり、見ごたえはあるが少々疑問にも。
まぁキムタクだし出来てもおかしくないよな。拓哉はダンスやってるからな。

そして龍が如くおなじみの豊富なサブイベントやミニゲームは今回も健在。
キムタクを主人公にした恩恵がビンビンに感じられるようになっている。

□街で自由に遊べ!すべてがキムタクの力になる!

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↑ムービーからシームレスに戦闘に繋がる展開は本作も。テンションが下がらず戦える。

「なんどめだ神室町」というガッカリ感はあるものの
神室街がそのままキムタクを輝かせるための舞台として用意されている。

いつもどおりチンピラが突っかかってくる。
いつもどおりプレイスポットがある。
いつもどおりサブイベントがある。
しかし主人公がキムタクだ。

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↑チンピラを倒すキムタク。本作は机なども巻き込んで壊せるので文字通り"大暴れ"が出来る。

チンピラをかっこよく倒すキムタク!
街を駆けるキムタク!

f:id:exa_axe:20181223014354j:plainしかしドロップカーブには弱いキムタク!可愛い。

本作のキムタクはカンフーをベースにしつつ
神室町でケンカして強くなった自称『神室町拳法』の使い手となっている。とはいえ
特に理由はないッ!キムタクが強いのは当たり前!!
のである。拓哉はダンスをやっているからな。

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↑麻雀で稼いだ金で飯を食いつくすプレイは全プレイヤーが通る道だろう。キモオタもいいやつなんよ。

実際、彼は街中で何をやっても経験値(sp)を稼げるようになっており、
何をしても彼を強くすることに繋がる。

例えそれが
マージャンでスカンピンになろうが松屋で全てのメニューを食い尽くそうが
ドローンレースにハマろうが結果街中に落ちてるドローンパーツの素材を漁ろうが
キモオタのフレンドが出来ようが
街がすべてキムタクの力になる!作りになっている。カッコイイキムタクとかっこ悪いキムタク、両方を味わえて非常にキャラクターに愛着が湧く。
何をやっても様になるしかっこ悪いところも魅力にすらなる。これがキムタクの力だ。
もはや概念たるキムタクにはタブーは無いのだ。

何ならホストクラブでバイトさせて源氏名をヒカルにしたりしても
折角なら酒に酔って全裸で前転移動させたりしても
どうせなら女装させてマヨネーズを吸わせたりしても
こうなったら歌わせていきなり音程を外させたりしても
もっと言うなら追突事故を起こしたりしても
何故か様になったろうが残念ながら出来なかった。

何をやっても違和感が無いことから
”とにかくなんか色々やらせたいよな!”と
様々なアクションやスポットに出向く猛烈なモチベーションになっていた。
しかもそれがShareできるのだから最高だ。
君だけの最強のかっこ悪いキムタクを撮ろう!と夢中になってプレイしていた。

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↑サイドケース・フレンドは多種多彩。気が遠くなるほどの数が用意されている。

あと、街の住人と友達になるフレンドシステムや探偵業(サイドケース)と合わせて
コレまでの龍シリーズ以上に街とキャラクターの関係がかなり密接になっており、
この点、非常によかったです。

□キムタク、から八神隆之になる物語。

f:id:exa_axe:20181223021741j:plain↑第1章の事件を解決させた後、いると感じた真犯人「モグラ」を追う物語となる。

今作の脚本はシリーズ最高傑作といわれる
龍が如く0の脚本家が手がけたということで話題になっていたが
きっちり期待に答えてくれた非常に上手い脚本になっている。

正直なところ、昨今のゲームの脚本について
日本は海外と比べて負けているな、と正直感じていたのだが
このシナリオならば十分海外と戦える、と素直に感じたぐらいだ。

プレイヤーが予想だにしなかった大どんでん返し、というのは正直なところ無く、
カンのいいプレイヤーならば恐らく物語の中盤で真相が分かってしまうのでは無いだろうか、
と思わせるほど非常に堅実な展開で物語は進む。

しかし、だからといって決して退屈なシナリオでは、無い。
熱い人間ドラマ、仁義や親子の絆は勿論だが
数々の伏線や謎をきっちり回収しつつ退屈させない構成の見事さには舌を巻く。

実は物語後半、ラストのラストになる前に真相はおおよそわかる。
プレイヤーの心理としては「もうおおよそ真実はわかったなーあとはアレくらいか」と半ば安心したような気持ちでプレイしてたくらいだ。

しかしそこで退屈させないようどんどんとインパクトのある展開を強烈なストレートパンチとして打ち込んでくる。
プレイヤーはそのストレートを受けてジワジワと意識を物語に奪われていく。
しかし最期の最期にアレこと「物語序盤に提示されていた謎」の解答を与えられる

「ああーーーー!!これのこと意識から消してたー!!チクショウやられた!」
と意識の外からの右ストレートにノックダウンされた。
そう、ストレートだと思っていたパンチは実はジャブであり、本命の右ストレートは意識の外から投じられるこの解答だったのだ。この構成、

もう素直に参りました。
プレイヤー心理を読み切った上でのKO勝ち。褒めるしかない。

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↑人妻系ヘルスで三回チェンジしたらヤクザが来たでゴザルの巻。SNSでも話題を呼んだシーン。

ただ実のところ若干、2章までは少々凡庸なシナリオに見えていた。
だからキムタクを使っていろんな遊びをしたり、
サイドケース(サブイベント)を優先させたり、
キムタクを人妻系ヘルスに突撃させた画像をShareしたり
することに面白さを見出していたくらいだ。

しかし、4章の終わりからはグッと物語に引き込まれた。

全体を通してシリアスとコメディのバランスが良く、
シリアスが続いていくとコメディ要素をぽんと入れてきて、
緩めたところに急にシリアスをぶち込んでくる。
その最たるものが(上述した)4章のラスト。
ここの緩急の演出が非常に見事、うっかり声を出してしまったほどに素直にやられた。
ここからはもう夢中だ。
一気に駆け抜けるようにプレイした。

f:id:exa_axe:20181223021221j:plain↑怖い・悪い・強いしかし仁義も持ち合わせたヤクザ「羽村のカシラ」。しゅき…。

キャラクター達は非常にキャラが立っていて人間味がある、愛嬌がある。
個人的なお気に入りはピエール瀧氏が演じる「羽村のカシラ」
悪くて怖い、怖くて悪いヤクザを見事に演じきっている。
しかし、そんなヤクザであっても仁義はある。

個人的には人間は矛盾した生き物であり、二面性が無い人間など無いと思っている。
最後に彼が見せたあの行動については素直に「やってくれたぜ!」とグンと株を上げた。
こういった最初の印象の悪さから後半で悪印象を払拭したキャラクターが多数おり、
ひたすら株を下げて終わるような”捨てキャラ”というのがほぼいない丁寧な脚本になっている。
まさかの再登場もあるので最初から最後まで登場人物全てを注視しながら進めて欲しい。

そしてそういった
二面性のあるキャラの代表格こそが主人公八神隆之である。

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彼は失望から弁護士を辞めた、といいつつも資格を剥奪された、というわけではなく
所属事務所を辞めたというだけで資格は引き続き持っている。
んで普通に「俺弁護士資格もってっけど?」とのたまう。

ついでに言えば弁護士になる前となった後も
暴力団の組長との付き合いがあるというのもなかなか。
(相反するものではないとはいえ本来合わないもんだろう)

脚本の都合といってしまえばそりゃそうなんだけど
個人的にはこれは3年前の凶行について彼は失望しつつも
どこかで引っかかっていたからではないか、と思う。

f:id:exa_axe:20181223021506j:plain↑様々な”何故”をすべて拾い上げて回収する脚本。すべてが終わった時、キムタクは八神隆之となる。

彼の内面や辿ってきた半生については物語を追うにつれて紐解かれていき
プレイヤーは彼を知ることになる。
彼は何故弁護士となったのか?
彼は何故ヤクザとの付き合いがあるのか?
彼は何故無罪を勝ち取れたのか?
そして彼は何故弁護士を辞めたのか?
プレイヤーが彼を知り、理解していく中でプレイヤーにとって彼は
”キムタクのアバター”から”八神隆之”となっていく。

ゲームを始める前には「キムタクが如く」などと言っていたプレイヤーも
恐らくゲームをクリアする頃には「ジャッジアイズ」と呼んでいるだろう。

それだけの価値と面白さ、そして意味が込められているタイトルであり脚本だ。

是非プレイしてキムタクから"人間"「八神隆之」へと転換する様を見届けて欲しい。

□総評

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傑作と言ってもいい出来。
龍が如くシリーズを知らないし・・・という人ほどバシっとはまるゲームでは無いだろうか。
はっきり言って木村拓哉が嫌いという人以外は買って損なし。
そういいきれるゲームだと思う。

ただ、逆に龍が如くシリーズになれている人は少々合わないかもしれないと思う部分もある。
というのもまず舞台がいい加減にしろ神室町と言いたくなるほど代わり映えしない点。
また、グラフィックについても進化が見られないのは残念。

あと、シリーズを続けてもなお改善されていない戦闘の問題が今作もある。
当然の権利のようにスーパーアーマーをつけて殴り殺すのはヤメロォ!
繰り返す、異常なまでに長い体力バーはヤメロォ!
相も変わらずカウンター打っときゃええねんって戦闘には閉口する。

とはいえ、戦闘に関してはEASYのさらに下、VERYEASYというのが用意されている。
キムタクに釣られて買った人達でも楽にプレイが出来るようになっているのでその点はご安心を。

質の高い脚本と魅力あるキャラクター、そして八神隆之という主人公。
非常によいゲームだった。
気になる方には是非オススメだ。

あなたもキムタクを通して八神隆之に会ってほしい。良いヤツだぜアイツ。

f:id:exa_axe:20181223024516j:plain次はあなたの番だろ!